助走、踏み足で土を蹴る・・・跳びあがるのが恥かしい 口の中におが屑 - まぶたの下から涙 呪わしい限界は一メ一トル十二で 飛びあがる俺をバーがさえぎる 正直に言っちまうが —瞬だけ上にいて ガバーッと落ちてしまうのが スポーツ人生のすべてなんだ だが俺は禁断の木の実を食い 名誉のしっぽにしがみつく みんなの踏み足は左なのに 俺の踏み足は右なのさ 助走、踏み足で土を蹴る...下降の目擊者たち 口笛を吹き、足をどん底へと引っ張る、 監督は俺にずけずけ言う 『お前はな、幅飛びでもやるがいい ! 腿の付け根が伸びてるんだ 右足で飛ぶなんて馬鹿げた気まぐれだ 空中に留まっていられないで 勢いよく落ちるだけだぞ』 だが...息をつまらせながら怒ったように 俺はちゃんと説明した、大事なのは 奴らの踏み足は左だが、 俺のは右ってことなんだ、と 助走、踏み足で土を蹴る、俺はカナダ人にはかなわない 奴は空中で俺の顔見て笑いやがった 俺はまたも一メ一 卜ル十二のバーを落とす そしたら監督はずばりと言った 俺を池の水に漬けてやる、って 人のみせしめになるように もし俺が、今すぐにもやめないならば 間違った右足飛びをきっぱりと でも俺は毒入りの酒を飲み干すか 何か別のことをやった方がましだ それでも正しくない右足を 決して変えない、正しい左足に ! 客席は一斉に笑い出す だが頑固な俺は笑われてもくじけない 助走、踏み足で土を蹴る、飛び上る 一メートル十二はもう越えた 足の付け根が伸びていようと 足がどうかしてしまおうと やっぱり俺は飛んだのだ 俺を下に落とそうなんてできないぞ         だって俺は禁断の木の実を食ったのだ そして名誉のしっぽをつかまえたのだ みんなの踏み足が左だろうと 俺の踏み足は右なのさ
© 宮沢俊一. 翻訳, ?