山頂の静寂の中 岩肌も風を妨げない、妨げない所 誰ひとり入り込めなかった幽谷に 住:んでいた—暮らしていた 陽気な、山のエコ一、山彦が 山彦は応えていた、叫び声に 人間らしい叫び声に 孤独に胸ふさがれ 熱いものに喉がつまり、喉がつまり 圧し殺したうめきが谷間にかすかに落ちる時 肋けを求めるこの声を 山彦は手を差しのベて拾いあげ こだまをつけて大切に運んでくれる 人問なんかじゃない筈だ 馬鹿になるほど酔払って、酔払って 誰にも大きな足音やいびきを聞かれないように いのちある谷間を殺し、音を殺すためにやって来たのは そして山彦を縛りあげ 口に猿ぐつわをかませたのは 夜通し続いた 血なま臭い、邪悪の気晴し、気晴らし 山彦は踏んづけられ その音を聞く, もいない 明け方近く銃殺された おとなしくなった山彦が、山のエコーが そして石が、涙のようにほとばしった 傷ついた岩肌から
© 宮沢俊一. 翻訳, ?