ギターいっちょう抱えて あいつが歌う、歌う しわがれ果てた声で しどろもどろの歌を だれも聴いちゃくれない あいつの歌を、歌を 弦は張ってあるけど なぜか響かない 猫だって啼くのに 犬だって吠えるのに 酒ににげこむあいつ 女も口説けない ところがそんな奴が 恋に落ちたんだってさ 打ち明けようとすれば 汗が滲みだす 初めての恋に溺れてさえも、さえも 愛の手紙ひとつも書けない あいつ かわりに あいつは 冷たい雪の上に 詩を書いたんだってさ 雪は溶け去る でも雪はなん度でもようしゃなく降りつづく なん度でも積もった雪に詩を書く 凍えた指先きで雪に書く恋文 笑わないでくれ そうさあいつは俺なんだ                                                                
© 新井英一. 翻訳, ?
© 石井好子. 歌, 1988
© 新井英一. 歌, 1998
© ?. 歌, 2013